2003~2020年度の川崎医科大学衛生学の記録 ➡ その後はウェブ版「雲心月性」です。
川崎医科大学 同窓会報 平成平成21年9月号 
2009年10月4日
平成21年度 新カリキュラムの導入について
川崎医科大学学長補佐・カリキュラム検討委員会 
衛生学 大槻剛巳
同窓会の会員の皆様にご報告させていただきます。川崎医科大学では平成21年度から抜本的な新カリキュラムの導入を実施いたしました。ご子弟が本学に入学されてらっしゃる会員の皆様もいらっしゃるかとも思いますが,今回のカリキュラム改革は,開学以来(私が学生だった頃も含めて)の1年生で教養,2年生で解剖,3年生で基礎から臨床の橋渡しとして病理や公衆衛生など,4年生で臨床各科,という枠組みを撤廃する可也大がかりなものとなりました。これまでは,各学年の種々の教科の授業時間数を増減させながら,そこにモチベーションを挙げるための授業枠,チュートリアル授業の枠などを導入するというスタイルだったのですが,今回の改革は本当に大きなものだったと,いや,今年1年生で本格導入,昨年の1年生(現在の2年生)は,移行期ということで実施していたのですが,現在の2年生も今年度後半からはほぼ新カリキュラムに合致したプログラムになりますので,まだ,暫時上級学年に上がっていくということで,今,真っ最中というところです。

私は,現在の福永学長が昨年度までの教務担当副学長でいらっしゃった頃に,現在の副学長である柏原教授が主体となって新カリキュラム検討ワーキンググループを編成された時から参画させて頂いて,特に,基礎・教養系の改革について,本当に何度か徹夜に近い作業をするような形で活動してきました。

以下は,今年度に発刊された「川崎医科大学学報」ならびに「学報―学生版―」に掲載した内容から抜粋したものです。

御一読頂いて,ぜひ,川崎医科大学のカリキュラムにご理解とご協力をお願いいたします。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

川崎医科大学では,数年前よりカリキュラム改革について検討を進めてきました。その理由は,①平成13年に文部科学省主催の「医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議」により「21世紀における医学・歯学教育の改善方策について―学部教育の再構築のために―」という提言がなされ,別冊として医学教育モデル・コア・カリキュラム―教育内容ガイドラインが提示されたこと,②上記のモデル・コア・カリキュラムに沿って,臨床実習の開始前の基礎医学~臨床医学の総合的な知識と技能の習得を図る共用試験が導入されたこと,③医師国家試験の内容が,従来の疾病の知識や病態の理解に加えて,非常に臨床医療の現場に即した事象が問われるようになったこと,などによります。

この新カリキュラムでは何が変わったか! ですが,第一に臨床医学教育の拡充と充実です。従来,おしなべて3学期間で修了していた臨床医学を6学期間に拡充しました。勿論,その中には,従来基礎医学の中で履修していた薬理学や病理学の各論,あるいは器官の構造と機能の復讐,あるいは課題探求・解決型学習も織り込まれた上での拡充であります。加えて現在の臨床現場(それに即した医師国家試験問題としても)では従来の臨床各科が複合的相補的に関連する横断的領域の重要性がクローズアップされてきています。いわく臨床腫瘍学,感染症学,臨床栄養学さらには実地臨床の中でのクリニカルパスや病診連携といった地域総合医療の問題点などです。これらの履修にも十分の時間を割り当てました。

第二に特に低学年教育においてモデル・コア・カリキュラムに準拠して,その精神を尊び,その上で本学独自の内容や,本学の教員でないと伝授出来ない特化した内容を加味するという考え方の徹底です。モデル・コア・カリキュラムに準拠することで,従来の○○学・□□学(いわゆる---ology)という概念から飛翔し,臨床病態の理解と同様に,人体各器官での構造や機能を考えること,そしてその根本に沿った上で,横断的な臓器間の相互作用や,分子細胞生物学としての個体の反応を理解すること,このような考え方に沿って,科目(コースとユニット)を構成しました。そしてモデル・コア・カリキュラムで,すでに記したように「人体各器官の正常構造と機能,病態,診断,治療」という大項目として,これらの器官ごとの履修は,そのまま臨床病態の把握,ひいては治療にまで到達する流れが提唱されているということです。勿論,学生諸子の理解への手助けとして,このうち器官ごとに「正常の構造と機能」は独立させ,解剖実習と時期が一致するように第1学年2学期から第2学年1学期にかけての履修としました。しかし,学生諸子も,この概念は,ひとつの臓器/器官においては,正常の構造と機能から始まって,診断・治療にまで及ぶ一連の学習内容であることを十分,弁えていただきたいと思っております。

第三には,準備教育やリメディアル教育の整理と再構成です。準備教育に関連したモデル・コア・カリキュラムでは「物理現象と物質の科学,生命現象の科学,情報の科学,人の行動と心理」について,特に重要であることが謳われており,確かに,どれもがその基本的な事項から,ある分野での臨床医学にも直結する内容を含んでおりますし,これらの根本的な事項は,将来どのような領域で医師として活躍するにあたっても,押さえておかなければならない基本的事項だと考えられます。それによって専門外の領域の医療技術・研究手法の進歩やそれらの臨床への応用に対して,十分な理解を得るためには必須であります。ただし,全体の枠組みの中で,これらの事象を極めるがごとく時間を割くことは,医学医療教育の鳥瞰図としてもバランスを欠く結果になりかねないことも承知した上で,第1学年2学期からは従来でいう基礎医学,新カリキュラムもしくはモデル・コア・カリキュラムでは人の各器官を視点の中心に据えたその正常部分の履修が始まることを踏まえて,これら準備/リメディアル教育の短縮化と効率化を目指しました。

第四に従来3年生の3学期から導入されていた臨床教科を2年生3学期の臨床入門コースから導入,3年生で各科のユニット,そして4年生で臨床腫瘍学や感染症学などの横断的領域と社会医学,地域医療を実施するようにして,臨床教育の拡充とともに,その中に病理や薬理学の各論を交えたり,問題解決能力などを開発するプログラムを導入していきました。

これによって,本学の医学教育が更なる飛躍と充実を成し遂げるであろうことを強く信じております。勿論,臨床実習などの再構築などの問題点は残されてもいるとは感じておりますが,学生諸子が,大きな視点で将来日本のあるいは世界の医学医療の推進するような人材として羽ばたいて行ってくれるように,医学医療の本質を極めることが出来るように,そして,何よりも言葉通りの良医となってくれんがために,この新カリキュラムが有効に機能することを信じております。